何もしないでたってエネルギーが勝手に消費されるのが夏という季節。炙られるような暑さに根負けして、冷房がないと動くのも嫌になるのが大人なら。一向にめげることなく、それどころか“こんないい天気なのに何でじっとしてんだよ?”とばかり。海だプールだ、キャンプにお祭り、どこかへ遊びに行こうよと、わざわざ日盛りへ飛び出してくのがお元気なお子様。それじゃあいけないのかと睨まれて、
『子供は平熱が高いからなぁ』
体感気温との落差が少ないから平気なんじゃねぇのか?と。苦し紛れにそう言えば、
『おいおい、それって真っ当な理由なんか?』
宝石みたいでそりゃあ綺麗な金茶の虹彩を収め、少ぉし力んだ形の大きな瞳を。一端の大人のように、いかにも胡散臭そうに眇めて見せてた悪魔っ子も…今は。板の間に敷かれた花ゴザの上、ゆっくりと首を振ってる扇風機が掻き回す ぬるい潮風に、淡金色の髪をぽわぽわと揺らされながら。くうくうと、これ以上はない無心なお顔にて転寝中。横向きになった奔放な寝相の、下敷きになってる華奢な腕がしびれないかが心配だったが、本人の体重も羽根みたいに軽かろうから平気かな? 海水パンツから伸びている、すんなりとした真白き御々脚(おみあし)が、どうにも目の毒だったのでと。さっきから何度も何度もタオルを掛け直してやっているのだが、さすがに暑いか蹴飛ばされてのいたちごっこが続いてる。白い頬の縁、目許のなめらかなラインに沿って軽く伏せられている睫毛の陰も、明るいが日陰にいるからか仄かに淡く。形の立った緋色の唇は、少ぉしだけ開いているのが何とも無邪気で愛らしくって。ここから…ああまで小憎らしい罵倒句がマシンガンのように飛び出すだなんて、誰が想像しましょうか。(苦笑)
『王城の合宿所って、富士山麓なんだってな。』
いくら何でもそこまで遠くへ、まだ小学生のセナくんは連れてけなくて。お盆休みだけは管理関係の方々もお休みを取るのでと、一旦帰って来る彼らだけれど。八月中は殆ど離れ離れになってしまう、仁王様とセナくんらしいと察した、蛭魔さんチの妖一くん。自分はしっかりついてく予定の賊学カメレオンズの合宿も八月からなので、
『じゃあサ・じゃあサ、その前に皆で遊びに行こうぜ』
と、彼には珍しくも幹事をわざわざ買って出てのプランニング。葉柱さんチの別荘がある、ちょっと田舎で、だから穴場な海辺へと、傍から見れば何とも変則的な4人で繰り出した皆さんであり。東京の集合場所から直行で送っていただいた小じゃれた別宅へ、まずはと荷物を置いて管理人のおじ様おば様ご夫婦へご挨拶。それから、お子様方が急かすのに追われ、やって来たのが…それは綺麗な砂浜が続く、静かなビーチで。
『?? お前泳げなかったのか?』
海辺に仮設された葉柱さんチの南国風ウッドデッキで水着に着替えて、それっと人影もまだ少ない浜へと飛び出して来たおチビさんたち。セナくんとお揃いの大きな浮輪を、背後の半分、引き摺るようにして抱えてた小悪魔くんへ、進さんがキョトンとしたのへと、
『馬っ鹿だなぁ。泳げたって、ずっとずっとクロールや立ち泳ぎばっかしてちゃあ疲れるじゃんか。』
堂々と胸を張っての反駁を返す。うわあぁ〜、ひゆ魔くんたら進さんにあんなコト言(ゆ)ってるよって。身長も体重も自分の倍以上はあるだろう偉丈夫相手に、あくまでも対等…以上の偉そうな口利きをする金髪金眸のお友達へ、こちらは真っ黒なふわふわのくせっ毛を撥ねさせた、そりゃあ愛くるしい坊やが“はやや〜”とお口を開けて、心からの感心をしており。そしてそしてその傍らでは、
“いくら進の奴が、子供相手じゃあ ちょっとやそっとじゃ怒らんたって…。”
怖いもの知らずにも限度があるぞと、ちょこっとヒヤッとした総長さんだったりしたのだが。…あのですね。大声出して言い掛かりつけちゃあ誰彼なくビビらせるのが十八番な、恐持て代表の不良の集まり、結構大所帯な暴走族のヘッド相手に、日頃からもっともっと小生意気な口を利いてる子ですぜ?(笑) それを思えば…ねぇ? そんなこんなで、遠出をしても相変わらずな顔触れが、波打ち際でおっかなびっくり尻込みしかかってたセナくんを浸からせるまでに十数分ほど費やしてから…後はそれぞれに楽しく泳いだりはしゃいだり。泳ぐと言えばただただ真っ直ぐ、何mも泳ぐだけの“水泳”しか知らなかったらしいお不動様は。セナくんが真ん中に嵌まって浮かんでる大きな浮輪を守りつつ、自分はどうかすると膝立ち姿勢くらいの浅瀬で、寄せて来る波を“せ〜の”で迎え撃っては乗り越える遊びにキャッキャvvと笑う小さな坊やへと見惚れっ放し。片やの二人は、
『よ〜し。ルイ、潜りっこしようっ。』
『あ、こら待てって。』
ちょ〜っと油断すると、足のつかないだろう深いところでもとっとと浮輪なんか放り出し、気ままに潜ったり浮かんだりをしてくれる色白なマーメイドさんに振り回されていたりして。
『桜庭も来れば良かったのにな。』
彼らとは仲良しで、気も利いて優しくて子供好き。しかも事情にも色々と通じているあのアイドルさんへも、一緒に来ませんかと実はかなり熱心にお誘いした彼らだったのだが。写真集や来年のカレンダー用のグラビア撮影の予定が先々にあるのだそうで、それを終わらせるまでは勝手に陽焼け出来ないという理由から、残念だけどとご辞退された。
“そんなの建前だっての。”
あ、やっぱり? 一見、年が離れた兄弟同士か、はたまた年が近すぎる二組の親子連れみたいに(おいおい) 見えながら。その実、血のつながりはないけれど、気持ちの絆は半端なアベックなんかにゃ絶対負けない、それはそれは仲睦まじいカップルさんたちに混ざっても、アテられるばっかだろうと思って遠慮された…とか?(笑)
『顔と肩だけ、真っ赤に陽焼けしちまうぞ〜。』
昼が近くなると、一旦上がれと強制捕獲され。別荘番のご夫婦が作って持って来て下さった、温かくて豪華なお弁当をいただきながらの一休み。そのまま“海の家”と看板を出しても支障がないほどしっかりした作りのデッキには、お屋根もあれば電源も引いてあり、食休みしがてらお昼寝しなさいと、大きなバスタオルにくるまれて寝かされたおチビさんたちが“やんやん・やーの”と愚図りつつも………くうくう眠ってしまって幾刻か。
「………うにゃ〜。」
単調に繰り返される潮騒のささやき。ぬるいゼリーの中にいるかのような、体温と外気の境目が曖昧になってるみたいな。間違いなく…ちょっとだけ我慢し難い暑さの中だのにね。何故だろうか、このままで居たい気もするの。夏の微睡み(まどろみ)には独特な、そんな不思議な感覚に包まれているのが心地いい。水泳という全身運動が効いたのか、はたまた…実はネ、昨夜は興奮しちゃってあんまり寝られなかったのと、恥ずかしそうに話してたセナくんと同様、こちらさんは…人知れず気の弱いお友達へと気を回した分が仄かな気疲れになって出たものか、思いの外ぐっすりと寝てしまった妖一坊や。
“………あれ?”
どこかに何〜んか違和感があるなぁと思いつつ、ゆっくりゆっくり眸を開いて。少し離れたところで団扇を使っていたお兄さんの、見慣れたシルエットと目が合って………。
「どういうお茶目をしてくれるかなっ!」
「俺じゃねってばよっ。」
不機嫌そうなお顔のまんま。むっくり起き出し、ドスドスと足音荒く寄って来て。胡座をかいてたお兄さんのお膝に馬乗りになると、自分の頭に手をやって、つむじの近くに一房だけ結われてた髪からヘアゴムを引き抜きがてら、むむうと怒った坊やであり。
「違うんなら目が合って真っ先に笑うかよ。」
ちゃ〜んとピンと来て言ってんだかんなと言いつのる彼へと、
「いや…それは、だから、だな。」
たちまち言い淀んでしまう総長さんだったのは、疚しさからでは…ちょっとはあったかも。(おいこら) そんなお茶目をされても起きないなんて、日頃ああまで油断しない彼には珍しい上に、それでなくとも可愛い寝顔だったし、で。(………。) いつ起きるのかなと気にもなったから、ついついずっと眺めてた。だから、誰より真っ先に目が合ったのであるのだが。だが、それを言うなら坊やの側だって、目覚めた感覚が…視覚にせよ聴覚にせよ、まずはと探そうと働いた対象が、やっぱりこのお兄さんだったのだからね。よって、真っ先にという運びになった素因というか責任というかは、堂々と半分ずつだと思うのですが。(笑)
「やってなくても笑ったのが許せねぇっ!」
勘違いだったことへの照れがまた、却って上乗せされての八つ当たり。水着の上へオーバーシャツをだけ羽織ってた総長さんの、胸板から肩へとよじ登るみたいに手を掛けて、直毛の黒髪を引っつかむと、ルイも結うのとヘアゴムを翳(かざ)しかけたが、
「あ〜〜〜っ。ひゆ魔くん、ほどいちゃったの?」
………おや。これは、もしかして。真犯人さんが天然さんならではな格好で自首をした模様です。一緒に寝かされたのに先に目を覚ましてたらしい小さなお友達。浜辺から戻って来て、傍らの洗い場で足元の砂を落としてから、よいちょとデッキへ上がって来ると、
「赤いヘアゴム、せっかく かーいかったのにvv」
もしかして彼の自前だったのか、にこりと笑ったセナくんには、他意も罪もないとは思うのだけれども。
「すぉうか、お前かっ!」
「にゃ〜〜〜っ!」
しっかりと目が据わった小悪魔くんから掴みかかられ、あっと言う間に…おでこが全開になるようにと前髪全部を束ねられ。俺が寝てた時間分は勝手に外すなと言い置かれてしまったセナくんだったり致しまして。
「ふにゃ〜〜〜ん。」
やや遅れて戻って来て、そんな顛末を見やって…なのに。ヨウイチくんを叱らなかった進さんだったのも、これまた意外であったりし。進さ〜んと泣きそうな声になってすがりついて来たセナくんを、余裕の懐ろへと受け止めてやり、抱え上げて“ああ、よしよし”と宥めはしたが、
「罰は守ろうな?」
むしろ諭していた彼だったりしたから、あのね? おやまあ、これはまた。案外と盲目的に甘やかしてばかりでもないんだなと。蛭魔くんだけでなく葉柱のお兄さんまでが“へぇ〜”と感心したのも束の間のこと。いつもとは少々趣きが変わった、おでこ丸見えの可愛らしい子、いい子いい子と頼もしい腕の中で、ゆったり揺すってやりながら、
「ヨウイチは葉柱のだからな。断りなく勝手に触ってはいかんのだ。」
「はぁ〜〜〜い。」
いや、そこ“は〜い”じゃないって…☆と。あまりにあっさりと流された会話へ、ヨウイチ坊やが耳まで赤くしながら“こらこらこらこら…////////”と喚き出し、総長さんは逆に言葉が出なくて絶句してしまい。天然コンビに軍配が上がった、真夏のひとコマでございましたとさvv いやぁ〜、この夏も暑くなりそうですってねぇvv(おそまつっvv)
おまけ 
「あの進があんなことを言うようになろうとはな〜。」
「あれは自分がされたくないことだからって換算して、
それで朴念仁なあいつには珍しくも、すぐさまピ〜ンと来たんだぜ。」
「だろうな。………って☆ 結局俺の頭まで くくるんかい。」
「いーじゃん。セナの悪戯を放っといたのと、俺んコト笑った罰だ罰vv」
「痛てぇって、こら。」
「わ〜〜〜vv 何か、仕官し損ねた浪人みたいだvv」
「こらぁ〜〜〜っ。」
お後がよろしいようで♪
〜Fine〜 05.7.29.〜7.30.
*何を書きたかったのかが、途中で吹っ飛んでしまいましたです。(おいこら)
たしか、髪をうなじにお尻尾結びされた総長さんの図を
ぽんっと思いついたのが発端だったような気が………。
それにつけても、夏場って暑いにもかかわらず無性に眠たくなりませんか?
雪山とかで眠くなるっていうのは、
急激な体温の低下に恒温動物としての反応が働いて放熱が始まり、
それでほややんと温かく感じて眠ってしまうのだそうで。
勿論、眠れば放熱で失った分も含めて体温はぐんぐん下がり始めますから、
そのまま凍死を招いて危ない訳ですが。(…何の話だ。)
暑すぎるってのは、そっちと違って一種の機能停止なんでしょかね。
スペインやメキシコみたいに、
日本でも“お昼寝休み”が法制化とかされればいいのにね?
サマータイム制よりも喜ばれるんじゃないかと思いますけれど。
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